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神戸地方裁判所 昭和50年(行ウ)31号 判決

原告 株式会社武庫不動産

被告 尼崎税務署長

代理人 平井義丸 山野義勝 ほか四名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  本件更正処分に至るまでの経緯

原告は、主として不動産賃貸を業とする青色申告の株式会社であり、尼崎市西昆陽字府古宇佐六ノ一、六ノ七の土地を賃借して、右土地上に別表(1)、(2)記載の建物(本件建物)を所有していたところ、右土地が国鉄の山陽新幹線の建設用地にかかることとなつた。そこで、国鉄は原告から右土地上の別表(3)、(4)記載の借地権(本件借地権)及び本件建物について買取り等をする必要が生じ、昭和四五年一二月四日、補償金を金一、一二〇万円として本件建物を、昭和四六年四月二三日、補償金を金八五〇万円として別表(3)記載の借地権を、同年九月三〇日、補償金を金三四〇万円として別表(4)記載の借地権を買取る等した。そこで、原告は昭和四五年度の法人税の確定申告にあたり、本件建物の買取りに際して交付された金一、一二〇万円全額が対価補償であり、措置法六五条の二第一項が適用されるものとして、右金額から右資産の帳簿価額である金四五六万四、四〇〇円を差引いた金六六三万五、六〇〇円を損金として計上して、欠損金額を金三二八万三、七九〇円、税額を零として、確定申告をし、その後、昭和四六年六月八日付で欠損金額を金二五四万三、七九〇円、還付すべき税額を金七万七、七〇三円として修正申告をした。次いで、昭和四六年度の法人税の確定申告にあたり、本件借地権の買取りに際して交付された金一、一九〇万円の補償金について全額対価補償に該当し、措置法六五条の二第一項が適用されるものとして、右金額から譲渡資産の帳簿価額である金二五九万円及び譲渡経費である金二〇万円を差引いた金九一一万円について、これを損金として算入し、所得金額を金三八七万七、七六五円、税額を金一〇六万九、三〇〇円とする確定申告をした。ところが、被告は、原告の昭和四五年度分法人税については、金六六三万五、六〇〇円の損金計上のうち金一〇七万円を否認し、これを原告申告欠損金額から控除して、昭和四九年一月三一日付で原告に対し、欠損金額を金一四七万三、七九〇円、税額を金三万六、二〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税を金五、六〇〇円とする賦課決定処分をした。原告の昭和四六年度分法人税については、被告は、原告が本件借地権を国鉄に譲渡したことにより受領した補償金全額について、これが対価補償に該当し、措置法六五条の二第一項を適用されるとして金九一一万円を損金として計上した分を全部否認し、昭和四五年度から昭和四六年度に繰越した欠損金のうち、前記争いとなつた金一〇七万円を否認して、それぞれ原告の申告所得金額に加算して、昭和四九年一月三一日付で原告に対し、所得金額を金一、四〇五万七、七六五円、税額を金四二二万五、六〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金一五万七、八〇〇円の賦課決定処分をなした。そこで、原告は、原告の昭和四五年度分および昭和四六年度分法人税について被告のなした各更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分について、それぞれ、同年二月二六日、被告に対し、異議申立をしたが、被告が同年五月九日付で右異議申立てをいずれも棄却したので、同年六月五日、国税不服審判所長に対して、それぞれ審査請求をしたところ、同審判所長が、同年七月二三日、昭和四五年度分法人税について、欠損金額を金二〇五万三、三九〇円税額を金三万六、二〇〇円であるとして、更正処分のうち欠損金額について金五七万九、六〇〇円を取消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をなし、昭和四六年度分法人税について、所得金額を金一、三四七万八、一六五円、税額を金四〇一万五、四〇〇円および過少申告加算税を金一四万七、三〇〇円であるとして、右各金額を超える更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を取消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をなし、右各裁決書謄本はその頃原告に送達された。

以上の事実は当事者間に争いがない。そこで、原告の昭和四五年度分法人税について、原告が国鉄から、本件建物の買取り等に対し、交付を受けた補償金の一部が対価補償でないから措置法六五条の二第一項が適用されないとして損金計上を否認し、また、原告の昭和四六年度分法人税について、原告が国鉄から、本件借地権の買取りに対し、交付を受けた補償金について措置法六五条の二第一項を適用できないとして損金計上を否認した被告の本件各更正処分等(一部裁決により取消された部分を除く)が適法であるか否かについて、以下判断する。

二  昭和四五年度分法人税について

前記争いのない事実に、<証拠略>を総合すれば次の事実が認められる。

措置法に規定する特定公共事業に該当する国鉄施行の山陽新幹線の建設事業について、その事業用地の範囲内に益田宗夫所有の尼崎市西昆陽字府古宇佐六ノ一及び益田信次所有の同所六ノ七の土地が係つたため、国鉄は同人らから右各土地を買取り、かつ、同地に本件借地権を設定して、本件建物を所有している原告から、本件借地権、本件建物を買取り等する必要が生じた。

そこで、昭和四五年二月頃、国鉄は公共事業用資産買取りのための全体説明会を原告を含む多数関係者を集めて行い、その後も逐次説明会を開き、原告らに対し、用地補償の内容、課税の取扱い等についての説明を記載した「用地補償の手引その1その2」(<証拠略>)と題する書面を交付した。その後、同年八月中旬頃から本件建物について原告に対し買取り等の申出をしたうえで、補償金の具体的な交渉を始め、同年一一月頃には補償金として金一、一二〇万円を交付することに合意した。右補償金額については、「要綱」、「基準」に基づいて、内訳は次のとおり算出された。

イ  建物等移転補償  金九九四万円

取得しようとし又は使用しようとする土地等に、取得せず又は使用しない建物等あるとき、その建物等を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によつて移転するに要する費用を補償するもので、本件建物の移転は除却工法によるものとして「要綱」二四条、「基準」二八条に基づいて算定された。

ロ  電気設備移転補償  金一九万円

イと同様の趣旨で、同じく除却工法によるものとして、「要綱」二四条、「基準」二八条に基づいて算定された。

ハ  移転雑費補償  金四九万〇、四〇〇円(端数整理前金四九万〇、七二三円)

土地の買収又は収用により、その上に存する建物等を移転する場合において、移転先の選定に要する費用、法令上の手続に要する費用、広告費、移転旅費、その他雑費等を補償するもので、「要綱」四三条、「基準」三七条に基づき、算定された。

〈1〉  移転先選定費  金三七万一、九一八円

〈2〉  就業不能補償  金 三万二、〇〇〇円

〈3〉  法令手続その他 金 五万六、八〇五円

〈4〉  雑費      金 三万円

ニ  営業補償  金五七万九、六〇〇円

土地の買収又は収用により、その上に存する建物等の移転する場合において、通常営業を一時休止する必要があると認められるときに補償するもので、「要綱」三二条、「基準」四四条に基づき算定された。

〈1〉  家賃減収補償  金四九万六、八〇〇円

通常休業を必要とする期間中の営業用資産に対する公租公課等の固定的な経費及び従業員に対する休業手当相当額並びに休業期間中の収益減に対する損失額の補償

〈2〉  得意喪失補償  金 八万二、八〇〇円

休業することにより又は店舗等の位置を変更することにより一時的に得意先を喪失することによつて通常生じる損失額の補償

そして、原告は昭和四五年一二月四日、本件建物の買取り等について、右の内訳に基づいて補償金を一、一二〇万円とすることに国鉄と合意のうえ、国鉄から、「建物移転九九四万円、電気設備一九万円、移転雑費一〇七万円」と記載された「特定公共事業用資産の買取り等の証明書」(<証拠略>)の交付を受けた。

以上の事実が認められる。もつとも、原告は、補償金の内訳については何ら交渉及び了解はなく、金額についてのみ交渉がなされた旨主張し、原告代表者本人尋問の結果中は、原告の右主張に副う供述部分があるが、原告代表者本人が、前記「用地補償の手引その1その2」の交付を受け、説明会にも殆んど出席していたこと、補償金額について国鉄と何度も交渉していたことは自ら供述しているところであり、前記「買取り等の証明書」にも補償金の内訳を記載していること等からすれば、原告は、前記「要綱」、「基準」等の存在や、右「基準」等には具体的な補償項目があること、課税対象等については熟知していたと推認できるから、<証拠略>中、原告の主張に副つた右供述部分は、たやすく信用できないし、他に右認定を覆えして、補償項目については交渉がなされておらず、金一、一二〇万円全額が対価補償金であるとの原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

ところで、右認定の各項目による補償金のうち、措置法六五条の二第一項の課税の特例(所得の特別控除)を受けるものは、同法六四条第三項によれば、その名義の如何を問わず、収用等により譲渡した資産の対価と認められるものに限られ、移転経費補償営業補償等については、別に定める場合を除き、この課税の特例はない。本件においては、前記イ、建物等移転補償の金九九四万円及びロ、電気設備移転補償の金一九万円は譲渡した資産の対価であり対価補償であるから措置法六五条の二第一項の所得の特別控除を受け得るものである。前記ニ、〈1〉家賃減収補償金四九万六、八〇〇円、ニ、〈2〉得意先喪失補償金八万二、八〇〇円合計金五七万九、六〇〇円は営業補償であつて、税法上、事業について減少する収益又は生じる損失の補てんにあてるものとして補償を受ける収益補償ではあるが、昭和三八年六月二九日付直審(法)第一五六号通達「一八」(営業補償金名義で交付を受ける補償金を対価補償金として取り扱うことができる場合)を適用できる範囲内の金額であり、課税上対価補償として扱うのが相当であるから、措置法六五条の二第一項の課税の特例を受け得るものである。しかしながら前記ハ、〈1〉移転先選定費の金三七万一、九一八円、ハ、〈2〉就労不能補償費の金三万二、〇〇〇円、ハ、〈3〉法令手続その他の金五万六、八〇五円、ハ、〈4〉雑費の金三万円、以上合計金四九万〇、四〇〇円(但し、四九万〇、七二三円の端数整理後の額)は移転雑費補償であり、税法上は、休廃業等により生じる事業上の費用の補てん又は収用等による譲渡の目的となつた資産以外の資産について実現した損失の補てんにあてる経費補償であり、対価補償たる性質を有しないものであるから(昭和四一年三月五日直審(法)第一九号通達「六」参照)、措置法六五条の二第一項は適用されない。

原告は、昭和四一年三月五日付直審(法)第一九号通達「九」を援用して、経費補償である前記ハ、〈1〉ないし〈4〉の移転雑費補償金四九万〇、四〇〇円も収益補償である前記ニ、〈1〉〈2〉の営業補償金五七万九、六〇〇円と同様の性質であるとして、対価補償として取り扱うべきであると主張するが、右通達は、曳家又は移築が可能であるために、右に要する費用を曳家補償等として受け取つたが、結局、右によらず、建物を取り壊した場合の取扱いに関するものであるが、本件建物においては、当初から除却による補償金を受け取つたのであるから、右通達は、本件とは前提を異にして該当しないし、そもそも、経費補償である右ハ、〈1〉ないし〈4〉の移転雑費補償金四九万〇、四〇〇円には、資産の消滅も譲渡もなく、何ら対価性を有しないものである。原告の右主張は採用できない。

したがつて、原告の昭和四五年度分法人税における欠損金額について、原告は、右金一、一二〇万円全額を損金に計上したが、移転経費補償である前記ハ、〈1〉ないし〈4〉の移転雑費補償金四九万〇、四〇〇円については、措置法六五条の二第一項に基づく所得の特別控除の適用が認められず、損金算入はできないので、原告の欠損金額は、その申告に係る欠損金額金二五四万三、七九〇円から損金として算入できない右金四九万〇、四〇〇円を控除した金二〇五万三、三九〇円である。

三  昭和四六年度分法人税について

(一)  原告が別表(3)、(4)記載の各借地権(本件借地権)について、国鉄から山陽新幹線の建設工事に係る「特定公共事業用資産」の買取り等の申出を受け、昭和四六年四月二三日、別表(3)記載の借地権につき、同年九月三〇日、別表(4)記載の借地権につき、それぞれ国鉄に譲渡し、その対価として、国鉄から前者につき金八五〇万円、後者につき金三四〇万円計金一、一九〇万円の補償金を受領し、その全額につき措置法六五条の二第一項が適用されるものとして、右金額から譲渡資産の帳簿価額である金二五九万円及び譲渡経費である金二〇万円を差引いた金九一一万円について、これを損金として算入して申告を行つたこと、国鉄が原告に交付した「特定公共事業用資産の買取り等の証明書」<証拠略>には別表(3)、(4)記載の借地権の買取り申出日が昭和四六年四月一日と記載されていることは当事者間に争いがないところ、前記二で認定した事実に、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。

国鉄は、その山陽新幹線の建設工事に係る同一公共事業用資産として、益田宗夫、益田信次の所有する尼崎市西昆陽字府古宇佐六ノ一、六ノ七の各土地及び原告の有する右土地上の別表(1)(2)記載の建物(本件建物)、別表(3)(4)記載の借地権(本件借地権)、並びに、本件建物の借家人らの有する借家権等の買取り等をするため、昭和四五年二月頃から全体説明会を数度に亘つて開催し、同年五月頃、国鉄職員が初めて原告を訪問して挨拶し、同年八月中旬に至り、右の公共事業用資産として、本件借地権及び本件建物の買取り等の申出をなし、その際、借地権については、その対価は更地の価格から土地所有者と借地人との間で、地域の慣行等による配分率によつて配分することになるので、配分率について土地所有者である益田らと協議のうえ決定するように、原告に述べたうえで、本件建物についてはその補償金額の具体的な交渉に入つた。ところが、本件六ノ一、六ノ七の各土地は所有者が異なり、本件建物は右両土地にまたがつて建つていること、また、土地所有者である益田らにおいて、原告の本件借地権の借地料が安いので、原告の借地権を認めることはできないから、土地の補償金全額を益田らに交付するように国鉄に要求していたこと等の事情により、土地所有者との土地の補償金額の交渉も遅れ、借地権者と所有権者との間で補償金の配分率の決定で紛糾した結果、借地権の補償金額の交渉が遅れる見込みであつた。そのため、原告と国鉄の間で、借家人との交渉、原告との本件建物についての補償金についての交渉を先にして、本件借地権についての交渉は中断して後回しとすることを了承した。そして、昭和四五年一一月上旬、原告は、本件建物の補償金額を金一、一二〇万円として買取り等に応じることを一応了承したうえ、同年一二月四日、国鉄との間で右補償金を受取つて本件建物を除去することを約した。その後、再び、本件六ノ一、六ノ七の各土地について、土地所有者である益田宗夫、益田信次、借地権者である原告、及び、国鉄との間で、各補償金について交渉がなされ、昭和四六年一月頃に金額の提示がなされて、同年四月二三日、別表(3)記載の借地権について金八五〇万円、同年九月三〇日、別表(4)記載の借地権について金三四〇万円を補償金として、それぞれ国鉄に譲渡するに至つた。

以上の事実が認められる。もつとも、<証拠略>には、右認定に反し、国鉄の発行した「特定公共事業用資産の買取り等の証明書」に記載した買取等の申出日はいずれも最初に金額の提示をした日であるとの供述部分があるが、長期間に亘つて行なわれた交渉の場において、買取り等に反対しているわけでもないのに、長く金額の提示がなされることなく買取り等の交渉がなされる事態は通常考え難いし、金額の具体的な交渉は昭和四五年八月中旬からなされたと供述する原告代表者本人尋問の結果に照らし、たやすく信用できない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、措置法六五条の二第一項(収用換地等の場合の所得の特別控除)が規定された趣旨は、法人の所有する資産について、土地収用法その他の法令の規定に基づいて、その必要な資産が強制的に収用され、または買収された場合においても、その譲渡益は課税の対象となるものであるけれども、かくては、その譲渡が法人の自由な意思に反するものであるにもかかわらず、その課税によつて、さらに再投資が阻害する結果が生ずるのは適当でないところから、課税の特例措置が講ぜられたものであるが、土地収用事業のうち、特に公共性、緊急性の強い特定公共事業の用地買取り等については、その特定公共事業の公共性、緊急性にかんがみ、これに応じた者に対し、起業者の買取り等の申出があつた日から六か月以内に当該資産を譲渡した場合に限り、課税上の特例を認めて、事業用地の早期取得の促進を図るとともに、一つの公共事業に対し資産を分割して二年以上にわたつて収用換地等の譲渡が行なわれている場合には、原則として二重に課税上の特例の適用を受けることを排除するため、最初の年に譲渡があつた資産についてのみ金一、二〇〇万円の所得の特別控除が適用されるものとしたものである。そして、かかる立法趣旨からして措置法六五条の二第三項にいう「買取り等の申出があつた日」とは、特定公共事業の施行者が資産の所有者に対し、当該資産の買取り等の意思表示をした日というべきであるが、右意思表示には、金額の提示は必ずしも要しないと解するのが相当である。本件においては、前記認定のとおり、国鉄は昭和四五年八月中旬、原告に対し、別表(1)(2)記載の建物(本件建物)及び別表(3)(4)記載の借地権(本件借地権)をいずれも山陽新幹線建設工事に係る資産として買取り等する旨を述べ、本件建物の補償金額の交渉をなし、本件借地権の補償金については、土地所有者との間でその配分率を決定するように述べたのであるから、国鉄が原告に交付した「特定公共事業用資産の買取り等の証明書」(<証拠略>)には本件借地権の買取り申出日が昭和四六年四月一日と記載されているけれども、国鉄は原告に対し、昭和四五年八月中旬、同一土地上にある本件建物及び本件借地権について、買取り等の明確な意思表示をなしたということができ、本件借地権は、措置法六五条の二第三項第二号にいう「一つの買取り等の申出に係る……最初に当該譲渡があつた年において譲渡された資産以外の資産」(もつとも、措置法六五条の二第三項第二号は、昭和四七年法律一四号改正により「一つの買取り等の申出に係る……」が「一つの収用換地等に係る事業につき……」となつたけれども、実質的改正が行なわれたものではない。)に該当するというべきである。

したがつて、原告は既に昭和四五年度において本件建物の譲渡の対価として受領した補償金について措置法六五条の二第一項の所得の特別控除の適用を受けている法で、重ねて昭和四六年度における本件借地権の譲渡の対価として受領した補償金一、一九〇万円について右適用を受けることはできないというべきであつて、原告が右金一、一九〇万円から譲渡資金の帳簿価額金二五九万円、譲渡経費金二〇万円を控除した金九一一万円を所得計算にあたり損金に算入したのは相当でない。

もつとも、このように解すれば、原告が主張するように、昭和四五年度中に本件建物および本件賃借権について資産の譲渡がなされていたならば、総額金二、三一〇万円の補償金(本件建物の補償金一、一二〇万円、本件賃借権の補償金一、一九〇万円の合計額)につき、金一、二〇〇万円を限度として措置法六五条の二第一項の所得の特別控除が受けられるべきであつたにもかかわらず、本件借地権の交渉が遅れて資産の譲渡が二年にわたつた結果、本件建物の補償金一、一二〇万円から譲渡資産の帳簿価額金四五六万四、四〇〇円を控除した金六六三万五、六〇〇円についてのみ措置法六五条の二第一項の所得の特別控除による利益が受けられるにすぎず、原告にとつて不利益となることが窺われるけれども、当初から同一土地上に存する本件建物及び本件借地権が買取り等の対象となつていたことは明らかであるところ、本件借地権については、土地所有者との紛糾もあつて補償金額の具体的交渉が遅れ、そのため本件借地権の譲渡が遅れたものであり、実質的にもかかる場合には原告が課税上の優遇措置を受けるに値する特定公共事業用資産の早期取得への積極的協力をなしたということはできず、資産の早期取得を促進するという法の目的に適合しないものとして、かかる不利益を原告において甘受するのもやむをえないというべきである。

(二)  原告が、昭和四六年度分法人税について、前五年以内の繰越欠損金の当期控除額を金三四三万七、八五八円と申告したことは当事者間に争いがないところ、前記二で認定したとおり、昭和四五年度分の申告にかかる欠損金額金二五四万三、七九〇円のうち、金四九万〇、四〇〇円が損金に算入できないものであるから、昭和四六年度において損金に算入される繰越欠損金の正当額は、その申告額金三四三万七、八五八円から右金四九万〇、四〇〇円を控除した金二九四万七、四五八円、すなわち、昭和四五年度分の欠損金二〇五万三、三九〇円(金二五四万三、七九〇円から金四九万〇、四〇〇円を控除した額)と昭和四三年度分の欠損金八九万四、〇六八円(<証拠略>によつて認められる。)の合計金二九四万七、四五八円となり、右金四九万〇、四〇〇円が前五年以内の繰越欠損金の当期控除の過大額である。

(三)  そうすると、昭和四六年度分法人税における所得金額について、原告が所得金額として申告した金三八七万七、七六五円に、損金として算入できない金九一一万円及び繰越欠損金の当期控除の過大額金四九万〇、四〇〇円を加算した金一、三四七万八、一六五円が原告の昭和四六年度分の所得金額である。

四  結論

以上認定したところによれば、原告の昭和四五年度分および昭和四六年度分法人税について、原告の昭和四五年度の欠損金額および昭和四六年度の所得金額は、いずれも被告の主張額のとおりであるので、右各年度の本件各更正処分(但し、裁決により一部取消された後の額)はいずれも適法であつて、何ら違法はなく、したがつて、また、右各年度の本件各過少申告加算税の賦課決定処分にも何ら違法はないというべきであるから、原告の本訴各請求はいずれも理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗 谷口彰 上原理子)

別表 <略>

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